2017年11月15日水曜日

バッハ「フランス組曲」の基礎知識と各曲難易度

バッハ(J.S.Bach、1685〜1750)作曲「フランス組曲」(Französische Suiten、BWV812 〜 817)についての基礎知識と難易度について。




【基礎知識】
出典:バッハ :フランス組曲 第1番 ニ短調 BWV 812(PTNAピアノ曲事典)


ドイツ語では "Französische Suiten Nr.1 d-moll BWV 812"。といっても、バッハ自身の命名ではない。「フランス」という名前がついた経緯は不明のようだ。

作曲されたのは1722年頃と推定されている。1721年に結婚した2人目の妻アンナ・マグダレーナに送った曲集『アンナマグダレーナのためのクラヴィーア小曲集』にフランス組曲の5曲が入っていることが根拠になっている。


バッハの時代、舞曲の配列は「アルマンド・クーラント・サラバンド・ジーグ」の4曲が基本であったが、サラバンドとジーグの間にさまざまな「当世風の舞曲」(エール、メヌエット、ガヴォット、ブーレなど)を挿入することが許された。

例えば、フランス組曲第2番の構成は次のようになっている。

1. アルマンド / Allemande (4/4拍子)
「ドイツ」という意味で、落ち着きを保ちつつ淡々と進む。4/4拍子、上拍で始まる。

2. クーラント / Courante (3/4拍子)
やや速いテンポの活発な舞曲。フランス式では3/2か6/4拍子、イタリア式では3/4か3/8拍子。

3.サラバンド / Sarabande (3/4拍子)
スペイン由来の3拍子の舞曲、連続する2小節がひとまとまり。荘重で重々しく進む。

4. エール / Air (2/2拍子)
アリアのことで、歌謡風の音楽(舞曲ではない)。

5. メヌエット / Menuet (3/4拍子)
フランスに生まれ上流社会で流行した優雅で気品漂う舞曲。落ち着いた3/4拍子で、通常は見かけ上の二部構成。

6. ジーグ / Gigue (3/8拍子)
イギリスを発祥とする軽快で速い舞曲。3/8か6/8か12/8拍子だが、4/4で3連符で記譜することも。


【各曲の難易度(28段階)】

出典:『ピアノ教材研究会』からバッハのページ(現在アクセス不可)
参考:《ピアノ曲の28段階難易度について》


そもそもフランス組曲を練習曲の候補にしたのは、上記のサイトを見て、なんとかなりそうだと思ったからであった。→《難易度別ピアノ曲(中級 18-13)》

そこでは、フランス組曲2番・3番・4番が難易度17(28段階:数字が大きい方が難)、1番・5番が19であった。私のレベルがおそらく15〜16くらいだと思われるので、少し頑張れば2・3・4番は何とかなるだろうと考えたのだ。


組曲の中の各曲についても難易度の数字があるので、転載しておく。赤色の数字は難易度18以上(自分のためにマーク)。なお、上記出典元のページには一言コメントが記載されている。

第1番
アルマンド:17、クーラント:18、サラバンド:14、メヌエットⅠ/Ⅱ:12、ジグ:19

第2番
アルマンド:15、クーラント:14、サラバンド:13、エール:13、メヌエット:11、ジグ:17

第3番
アルマンド:14、クーラント:17、サラバンド:15、アングレーズ:14、メヌエット:11、ジグ:16

第4番
アルマンド:15、クーラント:16、サラバンド:14、ガヴォット:15、メヌエット:12、エール:13、ジグ:16

第5番
アルマンド:16、クーラント:16、サラバンド:16、ガヴォット:13、ブーレ:13、ルーレ:17、ジグ:19

第6番
アルマンド:16、クーラント:17、サラバンド:15、ガヴォット:14、ポロネーズ:12、メヌエット:10、ブーレ:14、ジグ:17


こうしてみると、組曲全体として難易度の高い1・5・6番も、曲単位で考えれば練習曲の候補になりうるということだ。これは、ちょっと嬉しいかもしれない。


【学術研究?】

出典:《フランス組曲》(現在アクセス不可)


まさに《フランス組曲》という名前のページを見つけた。のだが、富田 庸(とみた よう、1961/12/17〜)というバッハ研究者の学術的サイトの一部なので難しそうだ。リンクをたどると、ほとんどが英語。それもそのはず、富田氏はベルファストのクイーンズ大学音楽学部(School of Music and Sonic Arts)の音楽学教授である。

ただ、このページは「鈴木雅明氏のCD(KKCC-2349)の楽曲解説」ということなので、それほど難しくはない(長いが…)。最後の「様式的特徴」が参考になりそうだったので、少し抜粋しておく。太字部分は私のマーク。


《フランス組曲》のもっとも際立った特徴は、バッハが積極的にギャラント様式(※↓)を追求している点である。バッハがめざすのは歌う旋律であり、そのために彼は、技術的に複雑な音型や厚いテクスチュアを用いることを注意深く避けている。このことは、伝統的にホモフォニックな楽章であるサラバンドにおいてすら見られる。前奏曲がないために、導入的な性格をもつアルマンドにおいてもあきらかに、対位法的書法はあまり使われていない

クーラントには2つの異なったタイプがある。すなわち、ゆっくりとして落ち着いたフランス風のクーラント(第1番と第3番)と、軽快なイタリア風のコレンテ(第2番、第4番、第5番、第6番)とである。


また、この曲集の前半の組曲のジーグについても言及すべき価値がある。というのは、堂々としたフランス風序曲(第1番)、陽気なフランス風カナリ(第2番)、なめらかに流れるイタリア風ジガ(第3番)、というふうにヴァラエティに富んでいるからだ。

ギャラントリー(サラバンドとジーグのあいだにおかれている諸楽章のこと)でもって、バッハは自らの様式的次元をさらにひろげている。《フランス組曲》においては、《イギリス組曲》では用いられていない形式である、エア、アングレーズ、ルール、ポロネーズが使われている。より自由に様式化するバッハの舞曲の扱い方も明白であるが、これは、《6つのパルティータ》でもってさらにはっきりしてくる傾向である。


※ギャラント様式:

1750年代から1770年代頃に流行した音楽様式。バロック音楽の複雑さから、古典派音楽の明晰さへと向かっていく中に登場した。多くの点でバロック様式のけばけばしさへの反発であり、バロック音楽にくらべると、より素朴で、ごてごてと飾り立てておらず、流麗な主旋律の重視に伴い、ホモフォニックなテクスチュアと、楽節構造の軽減や和声法の抑制(トニカとドミナントの殊更な強調)といった特徴がある。(Wikipediaより)



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