2015年7月21日火曜日

本「光の雅歌―西村朗の音楽」

『光の雅歌―西村朗の音楽』という本を読んだ。
『光の雅歌―西村朗の音楽』
西村朗+沼野雄司(春秋社、2005年5月20日)
魂をゆさぶる振動と渦。独自のヘテロフォニー技法を確立しつつ、いまなお管弦楽の大作を発表しつづける異才が、目眩く音響宇宙の秘密を初めて吐露。作品誕生のダイナミズムをめぐる杉浦康平との対話も収録。



以前、日本現代作曲家のピアノ曲を探したときに、西村朗の作品を2曲ほど見つけた。「カラヴィンカ」「ヴィシュヌの化身 クールマ」という2つの曲である。わりと好みの曲だったので、この本にも興味を持った。

 参考:《【現代ピアノ曲】日本人作曲家》

西村朗という作曲家が何を考えて曲を作ってきたのか、その作品の傾向はどう変遷してきたのか、などが少し分かったような気がして面白かった。それと、同時代の作曲家たちの名前を知ることができたのが収穫である。

作品については、なかなか音源も見つからず、大して聴けていない。これは今後少しずつ、機会があれば聴いてみたいと思っている。

以下は若干の読書メモである。数字はページ番号。
なお、西村朗のピアノ作品リストはこちら


32
西村:
同期生に、青島広志、小鍛冶邦隆、鈴木雅明、高橋裕、藤井一興…。
一学年上で目立っていたのが野平一郎。それと荻久保和明。二学年上との付き合いが多かった…、亡くなった山田泉さん…、しょっちゅう付き合っていたのが新実徳英さん…。

39
沼野:
芸大での修行時代は正統的なフランス派の矢代秋雄や池内友次郎のところで勉強されて、そこからアジア的なものにシフトしていかれるところがおもしろいですね。
西村:
もともとの原動力はシューベルト的な啓示の世界というんですか、理知ではわりきれない領域にあるんですね。…

53
沼野:
…保守的なあるいはロマンティックな音響を書く作曲家はいくらでもいるけれど、十二音的でもなく、保守的でもない道を切り拓くという…
西村:
僕の場合、多分、停滞できないんでしょうね。…十二音の音楽というのは音が停滞しているように聞こえちゃう。…ある音が鳴ったら、その音が必然的に進むべきエネルギーというか、方向性を持っていなきゃ嫌なんです。これは必然的にある種の旋法を呼び起こしますね。…

60
西村:
吉松さんは「反現代音楽」ということで、新ロマンという概念自体を嫌っていましたね。…音楽は美しくなきゃいけない。そいういう論法で、美しさの中に新鮮さがあればいいんだということだった。…

86
沼野:
…西村朗のヘテロフォニー作法を整理していただけますか。
西村:
第一種のものは…、メロディーの原型は一つなんだけども、それのいろいろ装飾の異なるものとか、音程にずらしがあるものとかが一緒になるようなもの。
第二のタイプというのは、線は線なのですが、基本的にはユニゾンであるということです。ピッチを共有する…といっても、微妙な点ではピッチが偶発的にずれたりもしますが、モワレ程度のずれです。(いろんな楽器で同じ音を出すと)その音の性格はみんなそれぞれに違う。これらは一つの束になって縒り合わされて…。
第三のタイプに関して言えば、今度は横の流れの線ではなく、パルスを共有するもの。《鳥のヘテロフォニー》などに明瞭に現れてきますけれども、リズム的パルスはみんな同じなんです。ところが、各楽器の音の跳び方が違っているんですね。…

122
西村:
ピアノって止まっていられないんですよ。必ず音が動くの。…一つの和音、ポーンですまないからアルペジオにしたり、いろんなことをする。…ところが僕みたいな(管弦楽的な)タイプのだと、音を止められるんですよ。止まっている中で変化が起こっている。…音は動いている時と止まっている時があるというふうに考えるのが管弦楽的で、さらに言えば、…クラリネットとオーボエとフルートが重なっている時と、オーボエとフルート、フルートとクラリネット、この混じったときの音が本当にリアルにイメージできるかどうか…

145
西村:
…ピアノ音楽においては、ヘテロフォニーは一体どうなっているのか…
(非常に困難だけどチャレンジしてきた→※ピアノのイディオムの拡張)
例えば、トレモロ…。一つのキーをたたいて同時に鳴る弦の数は三本。その音を猛烈な勢いでトレモロしペダルを踏むと、三弦は…振動の位相が少しずつずれてくる。そうすると、そこにモワレが生じて、倍音が安定しなくなり、環が広がっていく。
さらに、低弦域のところをソステヌート・ペダルでダンパーを開放状態にし、上音部を激しくトレモロし、低音域の弦に共鳴させると、その音が止まった後の残像が揺らぎ続ける。

166
西村:
…音楽だからこそできる、あるいは作り出せる想念・思念というものがあると思うんですよ。文学でも無理だし、何となく詩のような世界では可能なような部分はあるけれど、もっと直接的に人間に働きかけるものとして、音楽というのはある力を持っている。

171
沼野:
…海外での反響といえば、いつかコンサートの際、《ヘテロフォニー》を聴いた聴衆が嘔吐したとかのエピソードがありますよね(笑)。
西村:
たしかに…
沼野:
…精神に、いや身体に及ぼす音楽の直接的効果。(※ホールで生で聴かなくては体験できない部分?)

183
西村:
火炎というのは、人間の根源的な何かを揺さぶる力があるんですね。それから音。太鼓のドーン、ドーンという音と火が一体となって…。…自分の音楽について考えてみたら、多分にあの炎のようなものをつくろうとしているんじゃないか…。



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